ハト調査とは

なんでハトを調査?

ドバトColumba livia var. domesticaは日本で見られる多くの野鳥と異なり、同一の地域に生息している個体間でも羽色に多様性が見られます。

 

このドバトの羽色の多様性は家禽として人に飼われていた歴史が関係しています。ドバトと人の関わりは古く、5000年から10000年前には家禽化されていたという説もあります(Johnson and Janiga 1996)。古くからペットや伝書鳩として品種改良がされてきたため、その過程で養鳩家によってドバトの羽色は多様化したと考えられています。原種であるカワラバトColumba liviaの羽色は「灰二引」に似た灰色の翼に黒い帯があることから家禽化されたドバトも元々は「灰二引」の模様だったと考えられます。現在ではその他にも翼がゴマ模様のものや全身が黒色や栗色のドバトもいます。この羽色の多様性は、野生化した個体群でも維持されています。羽色の多様性に関する研究は国内外で行われており、多様性が維持されている理由について様々な説が示されています(このページの下段でいくつか紹介します)。羽色の多様性や分布のパターンには環境要因が影響しているという仮説もあります。環境要因が影響している場合、ドバトの羽色が環境指標になる可能性があります。ドバトの羽色と環境の関係について明らかにするため、全国ハト調査を実施します。

 

川崎市で見つけたハトの群れ。白っぽい翼に黒い帯がある「灰二引」、まだら模様の「胡麻」、真っ黒な「黒」が一緒にいました。

ハトのルーツ

街でよく見かけるハトはドバトColumba livia var. domesticaと呼ばれていて、カワラバトColumba liviaを家禽化したものが野生化したものと考えられています。カワラバトはヨーロッパや中央アジアの乾燥地帯・岩場に生息しています(birdlife International 2016)。あの灰色の羽毛は乾燥した岩場の中に隠れるのに適した模様だったようです。

 

 

人がカワラバトを家禽として飼い始めたのは、5000年から10000年前とも言われています(Jonston and Janiga 1996)。紀元前3000年の古代エジプトの遺跡からは伝書バトを使っていた記録も発見されています。ドバトは昔からペットとして品種改良されていて、進化論を提唱したダーウィンも多くのハトを飼っていたそうです(Darwin 1868)。他にも伝書鳩としての利用やレース鳩としても親しまれています。

 

都心のドバトほど黒くなる

 全国ハト調査事務局で東京のドバトの模様ついての調査を実施しました(調査の様子はこちら)。 調査では東京近郊で都心や郊外、河川敷、丘陵地と緑被率が異なる調査地点を設けて、ドバトの羽色ごとの個体数と環境の割合の関係を調査しました。

 

この調査結果を解析した結果、都市部にいくほど群れにおける黒いドバトの個体数の割合が増えることが分かりました。

 

東京でのドバトの羽色調査結果。円グラフは駅周辺にいたドバトの羽色ごとの割合を表します。右端の円グラフが新宿駅で、左端が京王八王子駅を示しています。左上から斜めに入った線が多摩川で、左下の濃い緑が多摩丘陵です。観察の結果、新宿や八王子といった建築物が多い場所では黒いドバトの割合が高く、建物の割合が比較的低い地域では灰二引のドバトの割合が高くなっていました。

この傾向は、国内だけでなく、パリやマドリード、モスクワなど様々な都市でも報告されています(Obukhova and Kreslavskii 1984;Obukhova 2007; Jacquin et al. 2013;Johnston and Janiga 1995)

 

 

全国ハト調査の目的

都市化に伴って黒い羽色のドバトの個体数が増えるという傾向は国内外で示されています。しかし、黒い羽色のドバトが都市部に多い原因は解明されていません。そのため、全国ハト調査では様々な環境要因と羽色の関係を解明し、ドバトの羽色が新しい環境指標になり得るかを検討します。

 

本調査は市民参加型の調査で行います。鳥の識別が苦手な方や、カウント調査をしたことがない方でも、安心して調査に参加して頂くために、特製のハトカウンターや模様の識別のための練習問題も作成しました。是非、調査にご参加ください。

 

 

全国ハト調査のテーマ

  1. ドバトの羽色の割合は地域によって異なるのか?

  2. ドバトの羽色と都市への適応には関係があるのか?

  3. ドバトの羽色は環境指標となるか?

     

 

ドバトの模様にまつわる仮説

  1. 鳥類を含め多くの生き物は天敵から逃れるために体の模様を進化させています。ドバトの羽色によって猛禽類による捕食率が異なることが報告されています(Palleroni et al. 2005; Haag-Wackernagel et al. 2006; Rutz 2012)。ドバトの羽色が地域によって異なるのは地域によって異なる捕食者の影響を受けていることが原因かもしれません。

  2. グロージャーの法則という、低緯度多湿な地域では体毛や皮膚、羽毛のメラニンが増え、体色が他地域の個体群や近縁種よりも黒くなる傾向が知られています(Gloger 1833)。これは、多湿の環境では体表で細菌が増殖しやすいため、メラニンによって細菌による羽毛の劣化を防ぐためとされており、多くの鳥類でも当てはまると言われています(Zink and Remsen 1986)。ドバトの羽色にもグロージャーの法則が影響している可能性が考えられます。

  3. ドバトの羽色の黒い模様はメラニンによって作られています。このメラニンには紫外線防御、耐病性、重金属の吸着といった機能が知られており、これらの効果がドバトの生存率や繁殖成功率に影響を与えている可能性が考えられます(Jacquin et al. 2013; Chatelain et al. 2014)

 

全国の様々な場所でドバトを数える調査は研究者だけでは行えません。様々な条件の地域のドバトを比較するためにも、みなさまと一緒にドバトの羽色の多様性についての研究を進めたいと思っております。

 

 

 

引用文献

 

 BirdLife International (2016). "Columba livia". IUCN Red List of Threatened Species. IUCN. 2016: e.T22690066A86070297. doi:10.2305/IUCN.UK.2016-3.RLTS.T22690066A86070297.en.

 

Chatelain M, Gasparini J, Jacquin L, Frantz A (2014) The adaptive function of melanin-based plumage coloration to trace metals. Biology Letters, 10:3–6

 

Darwin Charles(1868) The variation of animals and plants under domestication. John Murray, London

 

Gloger CWL (1833) Abänderungsweise der einzelnen, einer Veränderung durch das Klima unterworfenen Farben. Das Abändern der Vögel durch Einfluss des Klimas. Breslau: August Schulz:11-24

 

Haag-Wackernagel D, Heeb P, Leiss A (2006) Phenotype-dependent selection of juvenile urban Feral Pigeons Columba livia. Bird Study, 53:163–170

 

Jacquin L, Récapet C, Prévot-Julliard AC, Leboucher G, Lenouvel P, Erin N, Corbel H, Frantz A, Gasparini J (2013) A potential role for parasites in the maintenance of color polymorphism in urban birds. Oecologia, 173:1089–1099

 

Johnson R and Janiga M (1995)Feral Pigeons. pp280. Oxford University press. Oxford

 

Obukhova NY (2007) Polymorphism and phene geography of the blue rock pigeon in Europe. Russian Journal of Genetics, 43:492–501

 

Palleroni A, Miller CT, Hauser M, Marler P (2005) Prey plumage adaptation against falcon attack. Nature, 434:973–974

 

Rutz C (2012) Predator fitness increases with selectivity for odd prey. Current Biology, 22:820–824

 

Zink RM and Remsen JV (1986) Evolutionary processes and patterns of geographic variation in birds. Current Ornithology, 4:1–69